発生工学の技術


遺伝子工学を理解していることを出発として、発生学や実験動物学を利用していくという立場で発生工学の技術を紹介します。従って、発生工学技術の背骨とも思われる基本的な遺伝子工学の説明はしません。

胚採取


自然排卵では、卵や胚を効率良く採取できないので、性ホルモン投与による過排卵誘導をかけて、実体顕微鏡下で胚採取をします。

偽妊娠マウスと胚移植


現在の技術では、胚盤胞から先を試験管内で培養して個体形成をすることはできません。そこで、 代理母の子宮を借りることになります。この代理母は、偽妊娠状態である必要があります。代理 母には、一般にICRマウスを用います。 まず、精管結紮オスマウスを作製しなくてはいけません。
次に、偽妊娠マウスを得ます。交配する夜に発情しているメスマウスと精管結紮マウスをかけ 合わせて、翌朝、膣栓(プラグ)が確認さ れたメスが偽妊娠状態になります。
受精卵は卵管に存在しています。そこで、受精卵は、偽妊娠マウスの卵管に移植します。
桑実胚から胚盤胞になると卵管から子宮へ移動していますので、胚盤胞の移植先は偽妊娠マウ スの子宮内となります。


胚保存



胚保存の必要性は、大きく2つあると思います。これら2つのことから、遺伝子操作マウスを 利用するには、必要不可欠な技術となります。

  1. トランスジェニックマウスを利用していると、一つの遺伝子でも複数 系統になり、さらに別な遺伝子のトランスジェニックマウスも欲いとなり、研究が展開して行 きます。そうすると、たちまちのうちに、飼育室はいっぱいになります。実験どころではなく、 系統を維持するので精一杯になります。当面利用予定のない系統は、飼育・維持を停止する必 要があります。しかし、飼育を停止すると、今度、実験で利用したいというときには。。。と 不安になるでしょう。でも、マウスの胚は、凍結保存ができるのです。


  2. 動物は、快適な環境にある施設で飼育・維持されているはずです。 そのような施設は、多くの研究室で共同で利用されている場合が一般的であり、多くの人達が 出入りしています。さらに、遺伝子操作マウスは、他の施設や外国からやって来ることも多い です。これらの理由から、感染事故が起きる可能性も高くなります。感染事故が起きると、独 立した飼育室であっても、感染が他の飼育室へと拡大して行く可能性が高いので、最低でもそ の感染事故の飼育室にいる動物は全て処分の対象となります。その中には、貴重な遺伝子操作 動物がいるわけです。胚移植や帝王切開等によるクリーニングもできますが、そのためには感 染動物を隔離できる飼育室、その飼育室を管理する特別の人、クリーニングの操作、それと時 間がかかります。もし、未感染の時のマウスの胚が凍結保存されていれば、その胚を解凍する ことができるのです。保存胚数によっては、実験に必要なマウス数まで一度に復活させること も可能です。

人工受精


実験によっては、一度に、同じ週齢で多数のマウスが必要となることもあります。しかし、動 物ですから、研究者の思うように子供を作ってくれるわけではありません。自然交配では、1 匹の母親から、4ー8匹くらいです。そして、同じ日に誕生と言うわけにはいきません。そこ で有効なのが人工受精です。たった1匹のオスから得た精子で、200卵くらいを人工受精で きます。

遺伝子操作マウス


マウスの受精卵やES細胞の染色体を操作することが可能で、そのような方法により作成され たマウスを遺伝子操作マウスと呼びます。 トランスジェニックマウスとノックアウトマウスと言う方が耳なれているかもしれません。